親の老後や介護問題。「自分だけが生活や仕事を犠牲にして親の面倒を見てきた」という方にとって、相続は非常に切実なテーマです。
「これだけ苦労したのだから、当然他の兄弟よりも多くの遺産をもらえるはず」と思うのは自然な気持ちです。しかし、いざ相続が始まると、生前は介護に関わらなかった兄弟から「ただ同居していただけだろ」「親の年金を使い込んでいたのでは」と心ない批判を受け、大きなトラブルに発展するケースが後を絶ちません。
今回は、介護苦労に報いるための法律上の制度「寄与分(きよぶん)」の仕組みと、認められるための高いハードル、そして将来揉めないための事前対策について解説します。
「寄与分」とは、亡くなられた親の財産の維持や増加について、特別の貢献(寄与)をした相続人に対し、法定相続分以上の財産取得を認める制度です。
単に「親の面倒を見た」というだけでは認められず、「通常期待される程度を超えた特別な貢献」が必要です。寄与分には大きく分けて以下の5つの種類があります。
寄与分の類型 | 概要と具体例 |
① 家事従事 | 長男が父の家業に、他の従業員よりも安い給料(または無給)で長年従事した |
② 金銭出資 | 父の事業資金を援助した、または父の自宅の新築費用・リフォーム費用を出した |
③ 療養看護 | 認知症や要介護の親を、付き添い人を雇わずに長年同居して看病・介護した |
④ 扶養 | 経済的に困窮している親を引き取り、全面的に生活費を出して面倒を見た |
⑤ 財産管理 | 子が親所有のアパートの清掃や家賃集金、修繕手配を代行し維持管理した |
遺産分割協議の際、「親の介護をしたから寄与分を認めてほしい」という主張は非常によく出ます。しかし、現実的に療養看護で寄与分が認められるハードルはかなり高いのが実情です。
民法上、親族間には「互いに扶助し合う義務(扶養義務)」があります。そのため、以下のような「通常の看護・介護」の範囲とみなされると、寄与分としては認められないことがあります。
親と同居して身の回りの世話をした
病気療養中の付き添いや通院の手伝いをした
ほかの兄弟が見向きもしないため、入院手続きやお見舞いを行った
寄与分が認められるのは、「無報酬(またはこれに近い状態)で、プロの付添人やヘルパーを雇うべきレベルの介護を付きっきりで行い、親の財産減少を防いだ(医療費・介護費の支出を免れさせた)」と言える特別なケースです。
寄与分の金額は、まず相続人同士の話し合いで決めます。しかし話し合いがこじれると、介護をした人にとっては思っていたよりあまりに少ない金額になり、報われない思いをすることもあります。また逆に「親のお金で生活していたのでは」と生前贈与を疑われることもあります。
自分を守り、他の兄弟に寄与分を認めさせるためには、日頃から以下の資料を残しておくことが極めて重要です。
介護日記の作成: 日付、親の心身の状況、介護・看病の継続時間、拘束された時間、生活費の負担内容などを細かく記録する
領収書や記録の保管: 自分のお金から出した親の医療費や介護用品費の日付・金額・明細をすべて記録・保管しておく
実際の現場で最も介護を担っているのが「長男の妻(嫁)」であるケースは少なくありません。
しかし、どれほど長年実の親以上に尽くして介護をしても、義理の親が亡くなった際、嫁には法律上の相続権が一切ありません。 そのため、そのままでは遺産分割協議に参加することすらできないのです。
介護は肉体的にも精神的にも非常につらい仕事です。介護をしてくれた家族(特に相続権のない義理の娘など)にしっかり報い、将来の親族トラブルを防ぐための最も確実な方法は、「親自身が生前に遺言書を書いておくこと」です。
遺言書での遺贈: 遺言書の中に「長年介護をしてくれた長男の妻◯◯に、遺産の一部を遺贈する」と明記しておくことで、介護に対する感謝を形にできます。
親からの感謝といたわり: 介護を受ける親自身が、感謝といたわりの気持ちを遺言書という形で残しておくことが、残された家族の円満につながります。
一人で介護を抱え込み、さらに相続でも報われない思いをするのは非常に辛いことです。寄与分を正しく主張するためには「客観的な証拠」が不可欠であり、そもそも揉めないためには「生前の遺言書作成」が最大の解決策となります。
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